アングル:暗号資産で制裁逃れ、日本も対策前面に 国際連携が課題 | ロイター

[東京 20日 ロイター] – ウクライナ侵攻に伴う対ロシア経済制裁で、暗号資産が「抜け道」になるのを防ぐため、日本では官民挙げて取り組みを進めている。政府は関連する法律を成立させ、業界団体も資金洗浄(マネーロンダリング)防止策を強化させてきた経験から、対策に自信をのぞかせる。一方、暗号資産の取引は国境がないため、制裁の実効性確保には国際組織によるルール作りが望ましいとの指摘が有識者から出ている。 5月20日、 ウクライナ侵攻に伴う対ロシア経済制裁で、暗号資産が「抜け道」になるのを防ぐため、日本では官民挙げて取り組みを進めている。写真は暗号資産のイメージ。17日撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)
主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)は3月、対ロシア制裁を巡り、暗号資産の送金規制で合意した。これを受け日本では、関連する改正外為法の準備を進め、今国会で4月20日に成立、今月10日に施行された。暗号資産交換業者に対し、ユーザーが暗号資産を送る場合に送り先が制裁対象者に当たらないか、確認を義務づけることが柱だ。
岸田文雄首相が3月下旬に法改正に言及して以降、財務省は頻繁に交換業者への説明会を開き、業者の理解と対応の強化を求めてきた。その結果、交換業者は外部のブロックチェーン解析業者を通じて暗号資産の送付先のアドレスが制裁対象者に該当しないか確認していくことになった。
<交換業者、制裁逃れ阻止に自信>
暗号資産業界の自主規制団体、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の蓮尾聡会長(コインチェック社長)は、改正外為法について「事業者の規模にかかわらず一律に適用されるものでもあり、まずはミニマムのスタンダードを作りに行くルールだ」と指摘。外部のブロックチェーン解析業者を通じたアドレスの監視は「暗号資産を取り巻くAML(マネロン対策)に関する不信感を取り除く意味で最初の一歩だと思う」と話す。
業界としての対応が外部のブロックチェーン解析業者を利用することになったことで、規模の小さい交換業者にとっては自前でアドレスの「ブラックリスト」を作成して整備するコストが要らなくなった面がある。
「マネロン対策と今回の制裁対応は異なる」(金融庁幹部)ものの、マネロン対策に取り組んできた経験が生かされるとの見方もある。
暗号資産業界はウクライナ危機前から、マネロン防止対策の向上に取り組んできた。4月からは、暗号資産送付時に送り主と送付先双方の情報を明らかにして共有する「トラベルルール」の一部を自主規制としてスタート。ユーザーに対して、暗号資産の受取人の氏名などを申告することを義務づけた。
ビットポイントジャパンの小田玄紀会長(JVCEA副会長)は、主要な交換業者では、顧客の「KYC」(本人確認)から「KYT」(取引確認)に監視手法が高度化していると説明する。顧客の収入からは考えにくい高額な振り込みや複数のアドレスからの送金など疑わしい取引がないか、交換業者は監視しており、疑わしい送金については顧客に事情を確認してからでないと送金できない仕組みにしているという。
小田会長は「登録業者は対応をきちんとやっており、マネロンや制裁逃れには使われないのではないか」と自信を示す。
<封じきれない抜け道>
もっとも、暗号資産経由の制裁逃れを封じていく上で課題も残る。マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは、日本の暗号資産業者がしっかり本人確認をしても「送金先の取引所の本人確認がどの程度厳格かは相手国の規制次第だ」と指摘。「BIS(国際決済銀行)のような暗号資産取引に関する国際的な機関がルール作りをするのが望ましいのではないか」と話す。
例えば、地中海の小国・マルタは暗号資産に関する法制度を整備して交換業者を誘致しているが、マネロン対策に関する規制を議論する国際組織の金融活動作業部会(FATF)は、マルタを「戦略的な欠陥を有する国」に分類している。
暗号資産取引を巡る規制・監督の限界もある。事情に詳しい河合健弁護士は、改正外為法は登録業者を通じた抜け道封じには有効だが、「個人間でやり取りするものについてはどうしようもないという世界は継続してしまう」と話す。
グローバルに事業展開する大手暗号資産取引所のバイナンスは4月、EUの対ロシア制裁を受け、1万ユーロを超える暗号資産を保有するロシア国民へのサービスを制限していると明らかにした。
バイナンスは日本で事業展開するための登録を取得せず、金融庁が複数回にわたって無登録の「警告」を発した業者だが、バイナンスのチャンポン・ジャオ最高経営責任者(CEO)に近い関係者によると、ロシアの戦争に加担したくないとのCEOの意向が規制順守の姿勢につながったという。
金融法務を手掛ける鈴木由里弁護士は「暗号資産経由の制裁逃れをいかに封じるかは日本だけの問題ではない。どの国にも登録せずに国境なくビジネス展開している事業者や、規制の緩い国だけで登録してグローバル展開している事業者をどう捕捉していくのかは難しい問題だ」と話す。
(和田崇彦 編集 橋本浩)
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